臨床研究の終了と今後のPGT-A/SR
当院では2020年11月に日本産科婦人科学会によるPGT-A臨床研究分担施設として認可を受け、対象となるご夫婦に対して検査を実施してきました。
この臨床研究は2022年8月31日をもってエントリーを終了することとなり、2022年9月1日からは新たに日本産科婦人科学会が定めたガイドラインを遵守し、PGT-AおよびPGT-SRを実施していくこととなりました。
着床前遺伝学的検査とは
着床前遺伝学的検査(Preimplantation genetic testing)とは体外受精や顕微授精によって得られた受精卵(胚盤胞)の一部の細胞を採取し、その染色体の数や構造異常を移植前に網羅的に解析する検査のことを言います。
検査目的により
- PGT-A(Preimplantation Genetic Testing for Aneuploidy):着床前胚染色体異数性検査
- PGT-SR(Preimplantation Genetic Testing for Structural Rearrangement):着床前胚染色体構造異常検査
などがあります。
正常な受精卵の染色体は両親からそれぞれ染色体が受け継がれ、2本1組、合計46本23組持っています。染色体異数性とは染色体の数が多かったり、または少なかったりすることで正常な染色体数から過不足が生じている状態をいいます。
現在、日本では体外受精や顕微授精によって年間約4万人の赤ちゃんが生まれていますが、一方で、なかなか妊娠されない方や、流産を繰り返される方も数多くいらっしゃいます。体外受精における治療成績は高齢になるほど妊娠率は低下し、流産率は上昇しますが、その理由の一つに受精卵の染色体異数性があるということがわかっています。
対象者
【PGT-Aの場合】
- 反復する体外受精胚移植の不成功の既往を有する不妊症のご夫婦
- 反復する流死産の既往を有する不育症のご夫婦
【PGT-SRの場合】
- ご夫婦いずれかに染色体構造異常(均衡型染色体転座など)が確認されている不育症(もしくは不妊症)のご夫婦
検査の有効性
- 胚移植あたりの妊娠率が上昇する可能性があります
- 妊娠あたりの流産率を低下させる可能性があります
- 染色体異数性胚の移植を避けることで、妊娠までの時間を短縮できる可能性があります
検査の留意点
- 検査には胚盤胞にまで成長した受精卵を用いるため、胚盤胞に成長できず検査することができない、ということが起こりえます
- 胚盤胞の細胞を採取することでダメージを与え、移植できなくなったり、着床できなくなる可能性があります
- 細胞の採取や検査が不成功に終わる可能性があります
- 検査の結果、正常胚が1つもなく移植できない、ということも起こりえます
- 正常と判定された胚を移植しても流産したり、赤ちゃんに異常が見つかる可能性があります
- 正常に生まれる可能性がある胚に対して、異常胚と誤判定される可能性があります
PFC-FD療法について
PFC-FD療法とは、患者さまご本人より採取した血液から、成長因子を抽出・濃縮したものを目的部位に投与し、自己組織の修復を促す方法です。 近年、不妊治療に限らず口腔外科や皮膚科などといった、さまざまな分野の治療に用いられており、その効果が期待されています。
PFC-FD(Platelet-derived Factor Concentrate Freeze Dry:血小板由来因子濃縮物フリーズ・ドライ)とは、患者さま自身の血液から、成長因子を高濃度に含んだ多血小板血漿(PRP)から成長因子のみを抽出・濾過して無細胞化し、さらに凍結乾燥したものです。
PDGF、TGF-β、VEGF、EGF、FGF、HGF、IGF-1などの成長因子は、生体内における細胞増殖や血管新生の促進を担っています。 これらを胚移植前に子宮内に注入することで子宮内膜を厚くさせ、着床環境の改善が期待できます。
治療経過等から、対象となる方に患者さまにご提案させて頂いております。
治療の流れ
患者さまから約50mlの採血をおこない、感染症検査を実施したうえで、PFC-FDを作製します。凍結融解胚移植スケジュール中に合計2回、作製しておいたPFC-FD溶液を子宮内に注入したのち、融解胚移植をおこないます。