体外受精・胚移植法とは、体外に女性の卵子を取り出し、精子と受精させ、良好な受精卵を子宮に戻すことで妊娠を目指す治療です。一般的にタイミング法や人工授精に比べて妊娠率は高く、タイミング法や人工授精からステップアップされる方や、体外受精でしか妊娠できないと判断された方(卵管性不妊、男性不妊など)が対象となります。
治療の流れ
1. 卵巣刺激法
排卵誘発剤によって卵巣を刺激することで卵胞(卵子が入っている袋)の発育を促し、複数個の卵子を獲得できるようにするための方法です。卵巣刺激にはいくつかの方法があり、患者様のホルモン値やエコー所見などから決定します。患者さまそれぞれに合わせた方法を選択することで、より良い状態の卵を育てるように心がけています。
クロミフェン(+hMG/FSH)法
月経3日目頃より卵巣刺激の内服薬(クロミフェン)を投与します。場合により、注射薬(hMG・FSH)等も併用し卵胞を育てます。
アンタゴニスト法
月経3日目頃より卵巣刺激の注射(hMG、FSH等)を投与し、卵胞径が14‐15mmに発育した時点から排卵を抑えるための内服薬または注射薬(GnRHアンタゴニスト)で排卵を抑えながら、卵胞を育てます。
PPOS法
体外受精における卵巣刺激の際に黄体ホルモン(プロゲステロン)の内服薬を併用する方法です。
黄体ホルモンは排卵抑制効果があるため、排卵を抑えつつ、内服薬や注射薬で卵胞を育てていきます。
フェマーラ(+hMG/FSH)法
月経3日目頃より卵巣刺激の内服薬(フェマーラ)を投与します。場合により、注射薬(hMG・FSH)等も併用し卵胞を育てます。エストロゲンの上昇を抑える作用があるため、OHSSのリスクを抑えることができます。
自然周期法
ご自身のホルモン分泌による自然な卵胞発育を待ち、適切な時期に採卵をする方法です。
排卵誘発剤を使用しないため副作用などによる身体的負担が少なく、期待できる採卵数は1~個です。
当院では、通院回数や身体的負担(注射時の痛み)を軽減するため、注射薬はペン型の自己注射をお勧めしております。初回の場合、看護師が丁寧に使い方を指導します。
2. 採卵
採卵とは、卵巣にある卵胞という卵子が入った袋に膣側から針を刺し、卵胞液とともに卵子を回収する処置です。回収した卵子は、精子と受精させるまでの間、インキュベーター(女性の卵管内に近い環境に設定された装置)の中で培養します。
■卵胞液から回収した卵子
3. 採精・精子の調整
採卵当日に精子を採取していただき(=採精)、ご持参いただきます。
精液中にある死滅精子や細菌、白血球など受精の妨げになるものを取り除き(密度勾配遠心分離)、運動性の高い精子を回収することで(Swim-up法)受精しやすい状態に調整します。
精子の処理方法
4. 受精
受精方法は、精子の処理・調整をおこなった後の運動精子濃度から決定されます。
運動精子濃度が1000万/ml以上の場合、卵子に精子をふりかけて受精させる一般体外受精法(Conventional IVF)となり、1000万/ml未満の場合、顕微鏡下で精子を卵子に直接注入する顕微授精法(ICSI)となります。
また、1000万/ml以上の場合でも、以前に一般体外受精で受精しなかった場合(受精障害)や、以前に一度顕微授精法が適用された場合は、基本的にはその後は顕微授精法が適用となります。
一般体外受精(Conventional IVF)
一般不妊治療(タイミング法や人工授精)では妊娠されなかった場合や、卵管の閉塞など卵管性の不妊などの場合に行います。処理後運動精子数が一定基準値を上回った場合に適応となります。
顕微授精(ICSI)
一般体外受精を行うのに必要な数の運動精子を得られない場合(男性不妊)や、一般体外受精では受精しなかった場合(受精障害)に行います。
受精させた後はインキュベーターで培養し、翌日、受精しているかどうか観察をおこないます。
正常な受精卵には、父親由来と母親由来の前核が合計2つ見られます。
2前核
体外受精翌日の受精卵
未受精卵
5.培養
受精卵をインキュベーターの中で培養し、定期的に成長の様子を観察します。
タイムラプスインキュベーター
インキュベーターは胚にとって適した環境で培養するための装置です。従来のインキュベーターの場合、胚を顕微鏡で観察するためにインキュベーターから外へ出す必要があり、その際の環境変化によって胚へストレスを与えてしまっていました。
タイムラプスインキュベーターは、胚を外に出すことなく観察する事ができるインキュベーターです。内蔵されたカメラと顕微鏡を用いて一定間隔で写真撮影を行います。
撮影した写真を繋ぎ合わせることで動画のように胚の成長を観察することができます。
安定した環境下で培養できる事に加えて、胚の発育過程を正確に把握することが可能となり、移植する胚の優先順位をつけやすくなる等の利点があります。
胚の評価(グレード分け)
初期胚(2 or 3日目)のグレード分類
当クリニックでは、初期胚はG3b以上かつ、割球が6分割以上を凍結や移植の対象としています。
胚盤胞(5 or 6日目)のグレード分類
胚盤胞はBL3BC以上を凍結や移植の対象としています。
6. 胚移植
採卵と同じ周期に胚移植する新鮮胚移植と、一度凍結して別の周期に移植する凍結融解胚移植があります。どちらを選択するかは、卵巣・子宮内膜の状態や治療歴を考慮して決めさせていただきます。
また、移植する胚の個数は、以下の会告及びクリニックの判断により、提案させていただきます。
移植個数に関する日本産科婦人科学会の会告
胚移植において、移植する胚は原則として1個とする。
ただし、35歳以上の女性、または2回以上続けて妊娠不成立であった女性などについては、2個移植を許容する。(平成20年4月)
初期胚移植
受精卵を2日目または3日目まで培養し、発育が良好な胚を移植します。
胚盤胞移植
受精卵を5日目または6日目まで培養し、発育が良好な胚を移植します。
二段階胚移植
同じ周期の3日目と5日目にそれぞれの成長段階に合わせた胚を移植する方法です。3日目に初期胚を移植することにより子宮環境が整えられ、5日目の胚が着床しやすくなると言われています。
初期胚移植か、胚盤胞移植か
状態の良い受精卵がたくさん得られた方
胚盤胞移植
より強く、着床しやすい受精卵を選別します
良い受精卵が少ない方、培養器の中で胚盤胞まで育たない方
初期胚移植
移植キャンセルを防ぎ、受精卵にとって最も良い環境に一日でも早く戻してあげます
卵孵化補助術(AHA:Assisted Hatching)
孵化(Hatching)とは、胚盤胞において胚が透明帯から脱出することを指します。透明帯は、受精から胚盤胞の段階までは胚を構成する細胞をまとめたり、保護する役割を持ちます。孵化によって透明体から脱出できた胚は子宮内膜に取り込まれ(着床)、妊娠が成立します。
卵孵化補助術は、胚移植の前に透明帯の一部をレーザーで薄くすることで、孵化が起こりやすくする技術です。
7. 胚凍結保存
採卵周期の着床環境が不十分な場合や、OHSSの危険性が高い場合、余剰胚がある場合は胚を凍結保存することがあります。
当クリニックでは、生存率の高い急速ガラス化法(Vitrification)を採用しております。
凍結保存期間は凍結日から1年間です。以下のような場合、廃棄となります。
- ご夫婦の同意で廃棄を希望された場合
- 婚姻関係を解消された場合
- 夫婦のいずれかあるいは両方が死亡した場合
- 夫婦の一方への連絡がつかない場合
- 不慮の事故(天災、火事など)により、胚は破損した場合
- 凍結日より一年が経過した時点で、保存期間更新の希望がない場合
取り違え防止策
卵子や精子の取り違えを防ぐために、当クリニックでは「ダブルチェック」の徹底や「色分け」による判別を行っています。
また、採卵や胚移植の入室時や、胚移植の際のモニターでの名前チェックなど、患者さんご自身にも確認をしていただき、徹底した防止策を取っております。