当院では良好胚盤胞を2回胚移植し、妊娠成立しなかった場合に着床不全検査をおすすめしています。
妊娠すると女性の体では最初、胚は異物として認識されます。胚の成分の半分は父親由来のものだからです。排除されないように遮断する機能が働き妊娠ができます。
しかし、何らかの原因で着床不全を起こす場合があります。そこには自己免疫・止血機能・内分泌(ホルモン)や子宮内膜の環境(子宮内細菌叢や炎症の有無)着床の窓のずれが考えられます。
しかし、着床不全のことについては未だわかっていないこともあります。結果をふまえて治療を行いますので検査結果がすべてわかるまで避妊が必要です。
血液検査
内分泌検査
甲状腺機能
エネルギー代謝を調整するホルモンです。胎児は産生能がなく、母体に依存しているため、低下症の場合は特に流産の原因となります。
- 正常値
- TSH:0.34~5.00μU/ml
FT4:0.9~1.7ng/dl
プロラクチン
下垂体前葉から分泌されるホルモンで、着床や妊娠維持に重要なホルモンです。
乳腺発達・乳汁分泌、妊娠時には黄体の機能を維持させ黄体ホルモンの分泌を維持させます。
- 正常値
- 2.7~28.8 ng/ml
血糖
高血糖状態では、胚や胎児の細胞分裂や代謝過程に異常をきたす可能性があります。
※治療として、投薬や内科での治療をおこないます。
- 正常値
- 70~109 mg/dl
自己抗体検査
ループスアンチコアグラント
血液の凝固を抑制する作用があります。
- 正常値
- 1.2以下
抗カルジオリピン抗体IgG
カルジオリピンに対する血中抗体は、抗リン脂質抗体症候群のような自己免疫疾患で検出されます。
- 正常値
- 10U/ml未満
抗PE抗体(抗キニノーゲン抗体)
血小板活性化を抑制します。
- 正常値
- 0.300 C.I以下
抗核抗体(ANA)
自己の細胞中にある細胞核を構成する成分を抗原とする自己抗体の総称。いくつかは自己免疫疾患の病態判定などに意義が認められています。
- 正常値
- 40倍未満
凝固系検査
PT(プロトロンビン時間)
血管外で働く外因子系の血液凝固因子の異常を調べる検査です。
- 正常値
- 80~120%
APTT(活性化トロンボプラスチン時間)
血管内で働く内因子系の血液凝固の異常の有無を調べる検査です。
- 正常値
- 45.0秒以下
第XII因子
PT、APTTと合わせて検査することで、12種類ある血液凝固因子のうち欠損している因子を判断し診断します。
- 正常値
- 46~156%
プロテインS活性
凝固阻害作用を示すプロテインCの補酵素です。プロテインSが低下すると血液が凝固しやすくなります。
- 正常値
- 56~126%
その他の検査
Th1/Th2解析
正常妊娠ではTh1細胞が減少しTh2細胞が優位になり妊娠が維持されます。しかし、Th1/Th2比が高いと不育症や着床不全の原因となる場合があります。治療として、免疫抑制剤(タクロリムス)を服用することがあります。
- 正常値
- 10.3以下
25-ヒドロキシビタミンD3
ビタミンDは免疫寛容に関連するTh2細胞やヘルパーT細胞を調節する制御性T細胞を増やし、免疫拒絶に関連するTh1細胞を抑制することが報告されています。
- 正常値
- 30ng/ml以上
血液染色体検査
染色体異常があると流産を繰り返す原因になりますが、染色体異常を改善する治療法はありません。
- 正常値
- なし
子宮内膜検査
子宮内膜検査では子宮内膜着床能を調べ、胚移植に適切なタイミングを定めます。また、子宮内膜の細菌の種類と割合、バランスが正常かの測定と、流産・早産に関与すると言われる子宮内膜炎の病原菌を特定・診断することができます。
ERA/EMMA/ALICE
ERA(子宮内膜着床能検査)
子宮内膜には着床に適した期間(受容期)があり、着床の窓と呼ばれています。これには早い、遅い、長い、短いなどの個人差があり、ERA検査により、患者さまそれぞれの着床の窓を特定します。
着床の時期には子宮内膜で特定の遺伝子が働きます。次世代シーケンサーを用いて、採取した内膜組織中で働いている遺伝子の種類を調べることによって、内膜が着床に適した状態かどうか(=着床の窓の中に入っているかどうか)判断します。
着床の窓を特定し、最適なタイミングで胚移植することで、妊娠成功率を高めることが期待できます。
>> ERA検査案内ページへ (株式会社 アイジェノミクス・ジャパン)
<検査方法>
移植周期と同様にホルモン剤を服用し、通常の胚移植のタイミングで子宮内膜を採取します(この検査周期に移植をおこなうことは出来ません)。
膣から子宮へ細い管を挿入し、子宮内膜から微細な円筒状の子宮内膜組織を採取します。採取した検体からRNAを抽出し、次世代シーケンサー(NGS)にかけることで働いている遺伝子を調べることができます。結果がでるまで検査から約15日かかります。
<検査結果>
採取時の子宮内膜の状態が着床に最適な状態(受容期:Receptive)かどうかが分かります。早すぎたり、遅すぎる場合は、移植の時間やホルモン剤投与の開始日を調整することで最適な状態で胚移植をおこないます。
<注意点>
検査の周期には胚移植は行えません。また、検査結果によっては再検査、再々検査の場合もございます。
こちらの検査は治療経過等により、対象となる方におすすめさせて頂いております。
EMMA(子宮内膜マイクロバイオーム検査)
子宮内に存在する細菌を分析することで、子宮内の細菌環境が胚移植に最適な環境かどうかを判定する検査です。
子宮内は無菌状態と考えられていましたが、近年では子宮内にも細菌が存在する事がわかっています。細菌の一つである、乳酸桿菌(Lactobacilli)の割合が90%以上存在する場合は、着床・妊娠率が高い傾向にあるという報告があります。
次世代シークエンサーを用いて、細菌のDNAの配列を解析する事で菌の集まりを調べる事ができます。検査の結果、乳酸桿菌の割合が90%未満と分かれば、抗生物質やサプリメント、膣剤を用いて改善を目指します。
>> EMMA検査案内ページへ (株式会社 アイジェノミクス・ジャパン)
ALICE(感染性慢性子宮内膜炎検査)
慢性子宮内膜炎の原因となる、細菌の有無を検出する検査です。 慢性子宮内膜炎は細菌感染によっておこり、子宮内膜の慢性的な炎症を生じます。不妊症・不育症の原因のひとつとして知られており、不妊症患者の約30%、習慣性流産や着床不全患者では約66%が罹患していると言われています。 病原菌が検出された場合、抗生物質等を用いて治療を行います。
>> ALICE検査案内ページへ (株式会社 アイジェノミクス・ジャパン)
<検査の方法>
膣から子宮へ細い管を挿入し、子宮内膜から微細な円筒状の子宮内膜組織を採取します。
採取した検体は細菌のDNA配列の解析に使用されます。結果がでるまで検査から約21日かかります。
<注意点>
検査結果によっては再検査、再々検査の場合もございます。
こちらの検査は治療経過等により、対象となる方におすすめさせて頂いております。 EMMAとALICE検査はセットになります。
<結果について>
下記のように5つのパターンがあります。
異常が見つかった場合、抗生物質やサプリメント、膣剤を用いて改善を目指します。
※表は横スクロールできます。
EMMA検査結果 | ALICE検査 | 推奨される治療 | |
---|---|---|---|
1 | NORMAL 子宮内のラクトバチルスが90%以上 |
NEGATIVE 病原菌は検出されませんでした |
特になし |
2 | ABNORMAL 子宮内のラクトバチルスが90%未満 |
NEGATIVE 病原菌は検出されませんでした |
ラクトバチルス膣剤による加療が推奨されます(ラクトバチルスの生着を妨げる菌が存在する場合、それに対する抗菌薬治療が推奨されます) |
3 | ABNORMAL 子宮内のラクトバチルスが90%未満 |
POSITIVE 病原菌が検出されました |
推奨の抗菌薬にて治療し、ラクトバチルス膣剤による加療が推奨されます |
4 | MILD 子宮内の菌の数はそれほど多くありません |
NEGATIVE 病原菌は検出されなかった、またはごく少量のため問題ありません |
ラクトバチルス膣剤による加療が推奨されます |
5 | ULTRALOW 子宮内の菌がほとんど検出されません |
NEGATIVE 病原菌は検出されませんでした |
ラクトバチルス膣剤による加療が推奨されます |
<費用>
ERA・EMMA・ALICEは1回の子宮内膜採取で3検査(TRIO検査)を同時に行うことができます。 その他不明な点がございましたらお気軽にお問合せくださいませ。
CD138
着床障害の原因として慢性子宮内膜炎が関係していることが注目されています。
子宮内膜中に形質細胞(CD138)が多数認められた場合に慢性子宮内膜炎の状態にあると考えられています。その場合、抗生剤を投与する事で子宮環境の改善を目指します。
<検査の方法>
避妊のうえ高温期に子宮内膜を採取します。 結果がでるまで約2週間程度かかります。
<注意点>
検査結果によっては再検査の場合もございます。
こちらの検査は治療経過等から、対象となる方におすすめさせて頂いております。