新鮮胚移植?それとも凍結融解胚移植?

こんにちは、培養室です。

体外受精の治療を行う上で最も重要な工程の一つである胚移植。

我々培養士は大切に成長を見守ってきたたまごを子宮にお戻しするときには、いつも元気に生まれてきてくれることを願ってお戻しさせていただいています。

胚移植はたまごの成長段階に応じて初期胚移植と胚盤胞移植という2つの方法があります。

この2つの方法以外にも、採卵した周期に移植を行う「新鮮胚移植」、採卵した周期には移植を行わず一旦たまごを凍結保存して、別の周期に凍結したたまごを移植する「凍結融解胚移植」という2つの方法があります。

初めて体外受精の治療をされる方に対してインフォームドコンセントを行うと、胚移植は新鮮胚移植をイメージされている方が多くいらっしゃいます。

ですが、当院では新鮮胚移植は1割未満、ほとんど凍結融解胚移植を実施しています。
2022年の全国データでも新鮮胚移植は10.8%であり、ほとんど凍結融解胚移植周期です(日本産科婦人科学会HP,2022年ARTデータブック)。

凍結融解胚移植が多く選択されている理由はいくつかあります。

卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の重症化予防

採卵は精神的にも身体的にも負担が大きい処置なので、なるべく少ない回数で妊娠を目指す必要があります。
そのため採卵でできるだけ多くの卵子を回収する目的で卵巣刺激を行います。
卵巣機能がある程度保たれている方や若年の方に対して卵巣刺激を行うと多数の卵胞が発育しOHSSとなります。
この状態で胚移植を行い妊娠するとOHSSが重症化するため、それを回避する目的で全胚凍結を行います。
ちなみに卵巣機能は抗ミュラー管ホルモン(AMH)値と月経開始時期の卵巣の状態および血中FSH値を参考に判断しています。

胚移植不成功の場合や二人目以降の治療を見据えて

凍結胚を多く確保できれば、胚移植不成功の場合や二人目以降を希望されたときに再度採卵をせずとも凍結胚を移植するだけの治療となり、負担は軽減できます。
さらに、基本的に年齢を重ねると妊娠率は低下していきますが、二人目治療の場合、凍結胚は一人目治療時の年齢のままなので、妊娠率が低下することはありません。
まさに一石二鳥です。

PPOS法による卵巣刺激の選択

PPOS法とは卵胞を育てるホルモン注射と併用して、排卵を抑制する目的で黄体ホルモン剤を使用する卵巣刺激法です。
PPOS法はある程度の採卵数が期待でき、LHサージ抑制効果が高いために排卵リスクが少なく、OHSSリスクも低減できるため、昨今、調節卵巣刺激の主流になってきています。
一方で、卵胞を育てる期間に黄体ホルモン剤を服用するため新鮮胚移植ができません。
≫~PPOS 卵巣刺激法~

卵巣刺激によるホルモン環境や子宮内膜への影響

卵巣刺激はホルモン剤を体内に投与するため、新鮮胚移植に少なからず影響を及ぼす可能性が考えられます。
また排卵誘発剤のクロミッドは子宮内膜を菲薄化させることがあるので新鮮胚移植に影響を及ぼす可能性があります。

ほかにも仕事の都合でどうしても採卵後すぐの胚移植ができないなど、患者様が希望する時期に移植したい場合に凍結融解胚移植が選択されています。

では、どのような場合に新鮮胚移植が選択されるのでしょうか。

卵巣機能が低下している場合

高齢あるいは若年であっても卵巣機能が低下している方は卵巣刺激を行っても卵胞発育が芳しくなく採卵数が1個や2個の場合があります。
この場合、採卵周期に胚移植を行ってもOHSS重症化リスクは極めて低いです。

反復して凍結融解胚移植が不成功の場合

凍結融解胚移植を繰り返しても妊娠しない場合、その方には凍結融解胚移植が合っていないと考え新鮮胚移植を提案する場合があります。
ただし、新鮮胚移植を行うためにはOHSSに充分に注意する必要があるため、比較的軽度な卵巣刺激法が選択される傾向にあり、採卵数は少なくなる可能性があります。

凍結融解過程におけるたまごへのダメージを考慮して

凍結・融解は自然では決して起こらない人為的な事象なので、たまごがダメージを受け胚移植ができなくなる可能性があります。
したがって採卵数が1個や2個の場合、たまごへのダメージを考慮して新鮮胚移植が選択される場合があります。
ただし、現在の凍結融解技術はかなり優れており、生存率は95%以上ですので、不必要に避ける必要はありません。

新鮮胚移植と凍結融解胚移植の妊娠率

次は新鮮胚移植と凍結融解胚移植の妊娠率を見てみましょう。

2022年の全国データでは新鮮胚移植の妊娠率は21.9%、凍結融解胚移植の妊娠率は37.8%となっています(2022年ARTデータブック)。
データだけ見れば凍結融解胚移植の方が優れているように見えるかもしれませんが、先述したように凍結融解胚移植は卵巣機能がある程度保たれている方や若年の方に多い傾向にあり、逆に新鮮胚移植は高齢あるいは若年であっても卵巣機能が低下している方に多い傾向にあります。
したがって、高齢患者の多い新鮮胚移植の妊娠率は低い傾向にあります。
また、採卵数が多い傾向にある凍結融解胚移植は胚盤胞を移植するケースが多いことも妊娠率が高い要因となっています。
新鮮胚移植の場合はどうしても採卵数が少なく、たまごの選別目的の胚盤胞培養を行わないケースが多いため初期胚移植となりやすいです。
その他にも凍結融解胚移植の方がホルモン環境を整えることで最適な着床環境を作りやすいためという考え方もあります。
決して凍結・融解することで妊娠率が上がるわけではありません。

新鮮胚移植か、それとも凍結融解胚移植か

結局のところどちらが良いとか悪いとかではなく、患者様の状況に応じて選択していくことになるかと思います。
医師から移植方法についての説明があったときに希望の方法ではなかった場合は遠慮なく申し出てください。
ナース面談培養士外来をご活用いただいてもかまいません。ご夫婦が納得して治療していただけるようサポートさせていただきます。