あえて初期胚移植という選択

こんにちは培養室です。

当院は体外受精において胚盤胞移植を基本方針としていること、そしてその理由については、このブログ内でもご説明させていただきました。

≫形態的に良好な胚盤胞を育てるために

一方で、当院の胚盤胞到達率は50~60%であり、当院の移植基準をクリアした形態的に良好な胚盤胞にまで成長する確率はさらに低くなります。

体外の培養環境は体内の環境に近づけてはいるものの、100%再現することはできていません。
つまり、体外の培養環境は受精卵にとってはある程度ストレスのかかる厳しい環境であると考えられます。
そのような厳しい環境でも移植基準を満たすまでに成長した胚盤胞は生命力が強いため、妊娠率は高い傾向にあります。

しかし、体外の厳しい環境では移植基準を満たす胚盤胞まで成長できない場合もあります。
周期によってや刺激方法を変更することで採卵数や卵の質は変わりますが、採卵を繰り返し行っても毎回移植中止となる方もいらっしゃいます。

そのような方に対して胚盤胞ではなく、あえて初期胚移植を提案することがあります。

初期胚移植のメリット

受精卵にとって厳しい体外の培養環境を短縮することで移植できる可能性が高くなります。

初期胚移植の留意点

初期胚移植で妊娠すれば、体内で胚盤胞まで成長して着床したとわかりますが、妊娠しなかった場合、初期胚の体内での成長過程はわかりません(胚盤胞まで成長したのかしなかったのか、胚盤胞まで成長したが着床しなかったのかなど)。

体内でも胚盤胞まで成長できない場合もあるため、初期胚移植の妊娠率は胚盤胞移植よりも低い傾向です。

保険治療回数を1回消費します。

先進医療を見据えて

こうして見ると初期胚移植のメリットは少ないように感じますが、移植ができない場合よりかは妊娠の可能性は高まります(移植中止後に自然妊娠される方もいらっしゃいます)。
また最低2回胚移植を実施することで先進医療の適応となる場合があります。
特に「ZyMot」や「PICSI」は胚質改善に有効と考えられていますので、先進医療を見据えた治療戦略として、あえて初期胚移植を選択するという考え方もできます。

≫ZyMot(膜構造を用いた生理学的精子選択術)が先進医療に追加されました
≫PICSI~ヒアルロン酸を用いた生理学的精子選択術~

漢方による体質改善効果を期待して

とはいえ、胚盤胞を移植できるならそれに越したことはありません。
初めて移植中止となった方に対して、いきなり初期胚移植を提案することはほとんどなく、刺激方法の変更などの提案をさせていただいています。
また、ご興味があれば小柳先生が担当されている漢方外来を案内させていただくこともあります。漢方による直接的な胚質改善というよりかは、体調を整えて頂くことで卵に良い影響を期待しています。

≫漢方のお話2 :漢方で母体作り

最終的にはご夫婦で治療の選択を

初期胚移植に関わらず、様々な場面でいろいろな提案をさせていただく機会があるかと思いますが、最終的にどのような治療を選択していくかはご夫婦がよく話し合って決めて下さい。
ご夫婦が納得した治療を選択できるように、今後も丁寧な情報提供を心掛けてまいります。