こんにちは、培養室です。
当院は体外受精において胚盤胞移植を基本方針としています。これは保険診療での胚移植回数が制限されているため、1回の胚移植あたりの妊娠率を高めるためです。
ですが、胚盤胞まで育てるには一定のリスクがあります。
当院の胚盤胞到達率は50~60%ですが、当院の移植基準をクリアした形態的に良好な胚盤胞はそれよりもさらに低い確率となります。
≫治療成績
これはあくまで統計的なデータですので、全ての受精卵が移植基準をクリアした胚盤胞にまで成長する場合もあれば、残念ながら移植基準に満たず治療中止となる場合もあります。
形態的に良好な胚盤胞に成長するためには、卵子・精子の質が重要です。
周期によって卵子・精子の質は変わりますが、なるべく少ない治療回数、治療期間で妊娠して頂くために、様々な治療法を提案させていただく機会があると思います。
精子側から良好な胚盤胞を育てる工夫
当院では以前から精子に注目していました。
精子の質の低下は受精卵の質に影響するため、精液処理によって精子の質を低下させない「ZyMot」、成熟した精子を顕微授精に用いる「PICSI」、そして、精液中の精子の質や精液の抗酸化力を調べる「高度精子機能検査」などをこのブログ内でもご紹介してきました。
≫ZyMot(膜構造を用いた生理学的精子選択術)が先進医療に追加されました
≫PICSI~ヒアルロン酸を用いた生理学的精子選択術~
≫精子の質を調べてみませんか?~精子DNA断片化検査と抗酸化力検査~
活性酸素種が精子DNAを断片化させる原因の1つであることが分かっていますが、この活性酸素種は通常の精液処理によって発生することも分かっています。
この影響を少しでも軽減できれば、通常の精液処理を行っても精子の質の低下を軽減できると考え、今年から体外受精の精液処理には抗酸化物質が添加された培養液を使用しています。
ZyMotやPICSIは先進医療として適応が決められているため、初めて体外受精をされる方は実施することができませんが、抗酸化物質が添加された培養液は全例で使用しているため、初めての方でもその恩恵が受けられます。
その効果については学会などで発表したいと思いますので、データが纏まりましたらこのブログでも取り上げたいと思います。