精液の“処理前”と“処理後”

 こんにちは。培養室です。

8月も末になり、
少しずつ秋の気配が近づいてきましたね。

我が家では夏の初めに行き倒れのクワガタムシを保護し、
てっきりひと夏限りの命かと思っていたら、
夏が終わりかけた今でも依然としてピンピンしております。

エサをあげても威嚇ばっかりしてまったく懐いてくれませんが、
情も移ったので長生きしてほしいなと思っているところです。

 さて、当院の患者様には治療の際に培養士から精子の状態をご説明する機会が多々ありますが、
人工授精以上の治療をされている方の中には“処理前”“処理後”というのがあまりピンとこない方もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回は各治療の中で行っている精子の調整法についてお話しします。

 まず、精液には精子以外にも酵素やタンパク質、細菌などの不純物、精漿(精液の液体の部分)などさまざまな物質が含まれています。
初期に行う精液検査では、これらの精子以外の物質の状態も含めた所見をご説明しています。
“処理前”というのは、基本的にはこの時の状態です。

これらの精子以外の部分は頸管を通過する際に自然に除去されるのですが、
子宮内に多量に入ってしまうと腹痛や子宮収縮を引き起こします。

そこで、人工授精の際は密度勾配法という方法で不純物を取り除き、
濃縮した精子のみを子宮内に注入しています。

濃縮しているので一般的には濃度は高くなりますが、
精液量や精子の状態によっては処理後に数が減ってしまうこともあります。

 一方体外受精の場合は、密度勾配法に加えてさらにもう一段階swim upという処理をかけます。

この方法では、濃縮した精子の上に新しい培養液を乗せ、
泳ぎ上がってきた精子を回収するため、人工授精の時の“処理後”よりも濃度が低くなることが多くなります。

体外受精の際はこの密度勾配法+swim up法の他にZymot法という方法を用いることもあります。

Zymot法については良好な受精卵を得るために ~精子の質へアプローチ~をご覧ください。

 患者様には精液検査の説明やインフォームドコンセントの際に、
精液の所見から人工授精が有効かどうか、
体外受精になった場合の受精法等についてのおおよその予測をお伝えしていますが、
処理後にどれくらいの良好精子を回収できるかはあくまで当日の精液の状態によりますので、結果によっては当初の予定が変更となることもあります。

精液の所見は日によって変化するため、前回よりも結果が悪い、と心配になることもあるかと思いますが、その時に行った処理法も含めて結果を見ていただければと思います。

疑問に思うことがあれば、その都度相談して下さいね。