精子の運動率の改善には漢方薬の長期服用が有効です。

こんにちは。培養室です。

前回の院長のブログにもあったように、
先月は、鳥取県米子で開催された生殖医学会に参加してきました。

新型コロナウイルスが流行し始めてから、
しばらくはオンラインでの開催がメインでしたが、
今年はオンラインと現地開催のハイブリッド開催となり、
久しぶりに現地参加をさせていただくことが出来ました。

不妊治療の保険適用や、新しい培養技術についてなど、
とても興味深く、発表をじっくり聞くことができ、充実した時間を過ごすことができました。

今回、「補中益気湯が男性不妊患者の精液所見と治療成績に与える効果について」というタイトルで
当院の男性外来でおこなった治療の成績について報告させていただきました。

補中益気湯とは

精液検査の結果で、精子濃度や運動率があまり良くなかった患者さまに対して、
当院では、「補中益気湯」という漢方薬を処方させていただいています。

精子の状態には、さまざまな要因が影響しており、
食生活、ストレス、睡眠時間、精巣周辺の温度・血流、倦怠感などがあります。

漢方薬は、ホルモンや自律神経のバランスを整えたり、
血液の流れを良くしたりして体質を改善したい場合などに最適と言われていますが、

補中益気湯は、疲労倦怠や食欲不振など、幅広い症状の改善に使われている代表的な漢方薬の一つです。

補中益気湯の“中”は胃腸などの体の内側のことを表しており、
「補中」とは中を補う、すなわち体の内側を丈夫にするという意味があります。
また、「益気」は元気をだすという意味です。

そのため、消化器系の機能低下、体力の低下・虚弱を回復させることを目的として使用されます。

不妊治療中の男性が内服することで、精子の運動率や濃度の改善が認められることが知られています。

精子は精巣のなかで、だいたい2-3か月ほどかけて作られるため、
服用は少なくとも3か月以上、続けていただく必要があります。

当院で内服された方の結果

今回の検討では、
2017年1月~2021年5月までに、当院で乏精子症または精子無力症と診断された237名の方を対象に、

補中益気湯を内服された方とされなかった方の、
3か月後の精子濃度、運動率、妊娠率、体外受精の培養成績などを比べました。

約半数の方が運動率、精子濃度ともに改善し、
特に運動率においては、内服群では、28.0%→43.8%と、大幅に改善がみられました。

妊娠率や培養成績については、明らかな変化は見られませんでしたが、

女性側の要因も男性と同様に大きく影響するため、
男性側は、長期の内服によって精液所見の改善を目指しつつ、

治療経過によっては、
ご夫婦で積極的に治療のステップアップも取り入れていただけたらと思います。

以上、今後の治療の参考になれば幸いです。

ご質問などありましたら、いつでも培養士にご質問ください。
また、予約制の培養士外来もぜひご活用ください。