こんにちは。培養室です。過ごしやすい気候になってきましたが、まだまだ外出しづらい空気が続いていますね。自粛疲れにならないよう、気分転換しながらお過ごしください。
今回は培養室から、卵のグレードのお話をさせていただきたいと思います。
患者様に卵のお話をしていると、こんな質問を受けることがよくあります。
「今回の卵で妊娠できる確率はどれくらいですか?」
「この卵、移植できるぎりぎりの状態ですよね?」
当院では初期胚において、Veeck分類という方法に基づいた基準で凍結・移植に用いる卵を決定しています。
患者様には得られた卵について、この図を見ていただきながらお話することになっています。ところが、グレードがよかった場合は実際のところどれくらい可能性があるのか、またG3a、G3bだった場合は基準ぎりぎりだけど大丈夫なのか、といった疑問を持たれる方も多いようです。
統計を取ると、確かにグレードの良い卵、つまりキレイな卵の方が妊娠率としては高くなっています。
下のグラフは、同じグレードの卵を移植した人達のうちどれだけの人が妊娠したのかを示したグラフです。
しかし、あくまでも見た目だけでの判断であり、グレードだけでなく分割のスピードも卵の状態を見る上での大きな判断材料ですので、
「グレードがいいから大丈夫!」
「あまり良くないグレードだから今回は難しいかも…」
とはっきり言い切ることもできません。
G4以下になると、ほとんどの卵はそこで成長が止まってしまいますが、上のグラフからもわかるように、G3a、G3bの卵でも、やや確率は低くなるものの一定の妊娠率は得られています。
また、妊娠された方が移植した卵はどのグレードだったのか、というのをみてみると…
このグラフからわかる通り、半分近くの方が、心配されることの多い「基準ぎりぎりの卵」であるG3bの卵を移植して妊娠されています。
治療をしていると確率や数字ばかりに目が行きがちになっていまいますが、移植できる状態の卵が得られたら、まずはその卵自身の力を信じて、移植、判定までリラックスして過ごしてみるのも悪くないのではないでしょうか。
胚盤胞にももちろん基準はあり、凍結、移植はそれに基づいて決定させていただいています。
胚盤胞については、また別の機会にでもお話させていただきますね。
最後に、2011年にFertility and Sterilityという雑誌の5月号に報告された興味深いデータをご紹介します。
The effect of medical clowning on pregnancy rates after in vitro fertilization and embryo transfer.
Friedler S, Glasser S, Azani L, Freedman LS, Raziel A, Strassburger D, Ron-El R, Lerner-Geva L.
Fertil Steril. 2011 May;95(6):2127-30
2005年から2006年の間にイスラエルで行われた実験で、胚移植を行った後でプロのお笑いの方による12~15分間簡単なコント、マジック、手品を見てもらい、患者さんの笑いをとりリラックスさせたところ、お笑いを見せなかったグループに比べて妊娠率が有意に上昇したという結果になりました。
移植後にリラックスしてストレスを軽減したことにより、妊娠率が向上したのではないかということです。
当院ではコントはお見せできませんが、患者様が通院中少しでもリラックスできるように協力させていただきたいと思います。
何か心配なことがあればいつでも相談してくださいね。